2006年4月15日

最近アメリカの政治雑誌では、ベトナム戦争でアメリカが南ベトナム政府軍に国の防衛を任せて撤退した「ベトナム化」という言葉にならって、イラク化という言葉が目立ち始めている。もちろん、アメリカで最近厭戦気分が高まり、撤退を求める論調が強まっていることが背景にある。だが、中東に位置するイラクは、ベトナム以上に手を引くのが難しい国である。

ベトナムと違ってイラクは、シーア派、スンニ派、クルド人の三者による内戦となる可能性が高いので、シーア派とクルド人からなるイラク正規軍に権限を委譲して、アメリカが撤退した場合、シーア派とクルド人がスンニ派の虐殺をもくろむか、スンニ派が虐殺を防ぐために大反攻を行う可能性が強い。いずれにしても、大変な混乱状態になることは、目に見えている。アフガニスタンのように、イスラム系テロ組織の温床になる危険もある。さらに、核開発を進め、欧米との対決姿勢を鮮明にしているイランが、イラクで多数派であるシーア派への影響力を強める可能性もある。

また、1920年代にイラクを支配したイギリスも、国内世論の撤退論におされて、国内の平定が十分でないまま撤退したため、結局イラクに独裁政権が誕生する土壌を生んでしまった。アメリカにとっては、「行くも地獄、残るも地獄」という状況が生まれてしまったようだ。9月11日事件という未曾有の大規模テロに襲われたために、政府部内のタカ派の言いなりになって、イラクという泥沼に足を突っ込んでしまったブッシュは、まことに悲劇の星の下に生まれた大統領である。